2018年10月14日日曜日

PLATFORM・15 ~ 何も出来ていない日

当時のマウスキーのシフトについて、最初に説明させてもらう。

月曜日と火曜日は、Mさんと二人でお店を回すので、朝一の9時から仕事に出ていた。
木曜日は、Nさんが7時50分に出勤して、Iさんとマウスキーが10時に出勤するシフトであった。

そして、ある日の木曜日の事だった。

木曜日は、Nさんが7時50分に出て、料理等をしてお店の準備をしている予定であった。

お米を炊いて、お味噌汁の準備をして、ハンバーグが出来ている、そう思っていた。

だが、しかし……マウスキーとIさんが店に出た時、一体何故そうなのかは分からないが、何も料理の準備がしていなかったのだ。

そして、料理の用意をしていなければならない筈のNさんも、何故出来ていないのか分かっていなかったようである。

とにかく、その日はMさんもお店に出てきていて、何が出来ていないのかを確認し始めた。

Nさんは、「お味噌汁は出来てますし、お米も炊いています。お茶もあるし、カレーもあるでしょ」と、穏やかな様子であったと記憶する。

だが、肝心のメインが出来ていなかった。

木曜日の日替わりメニューはハンバーグだったので、ハンバーグが出来上がっていなければならないのだ。

10時に来てから、お弁当を詰めて、11時には開店準備を始めなければならないお店のセオリーがあったからだ。

10時半過ぎた頃に現状が全て把握された時、Mさんは厨房からNさんを出すと、何かを言う間もなく、自らの手でハンバーグを作り始めた。

あーだこーだ言う間があったら、やらなければならない、そういうわけだ。

そして、Nさんは、再びぼんやりと宙を眺め、呼吸をする以外の機能を停止させてしまった。

仕方がないが、とにかくお弁当と日替わり定食の準備を、1時間以内で全て済ませる必要があったのだ。

マウスキーとIさんは、お弁当と日替わり定食の副菜などを詰めて、ハンバーグが出来ればいいだけの準備をしておいた。



Mさんは、準備をしながらNさんに、「朝早くから来てるので、もう帰ってもいいですよ」と、帰るように促し始めた。

すると、ずっとフリーズしていたNさんは、やっとの事でハッと我に返ると、「そう? じゃあ、そうするわね」と、ぼんやり言うと、帰り支度をして、猛烈な勢いで用意をする我々を残して帰宅して行った。

Nさんが帰った後も、我々は無言で作業をし続け、やっとの事で滑り込みのようにして、全てが間に合った。

Mさんは、「大方、コーヒーを飲んでお客さんと喋っとったら時間がなくなっただろうで」と、Nさんが仕事が出来ていない理由を推測して、ぼそっと呟いた。

それを思わせたのは、コーヒーメーカーに残るコーヒーと、食器洗機に入っていたコーヒーカップである。
それは、鈍いマウスキーでも察知出来る形跡だった。

「あの人はパニックになると動きが全部停止するから、そうなったら何を言ってもいけんけ、自分でするしかないだが」
と、Mさんはマウスキーに言った。

確かに、それには納得が出来た。

だから、何だか忙しくなってきた時は、いつもNさんは宙を眺めるように、ぼんやりとしているのか…と。

忙しくてもマイペースで、余裕を保ち続ける人というわけではないらしい。

そして、その日の悪夢を経験した後、Mさんは更に、「あの短時間でよくハンバーグ作れたわ」と、自分に感心していた。

それにしても、メイン料理が出来ていなかったのに、オーナーのMさんはNさんにとがめる言葉を一つも言わなかった事に、マウスキーは意外に思った。

しかし、MさんがNさんに対して、何故何も言わないのかというには、理由があったのだ。

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