場所が大変分かりにくいという事と、最初は母マウスキーに声がかかっていた仕事なので、母マウスキーに仕事場まで連れて行ってもらった。
確かに、うっかりしていたら見落としてしまいそうな、建物の隙間にこじんまりと佇んでいる、という感じのお店であった。
定食やお弁当を売っているという風には見えない、喫茶店風な内装の店内であった。
早速、人見知りのマウスキーは、仕事場に行くと必ずやる、元気な挨拶というやつをした。
「今日から働かせていただく事になりました。マウスキーです。よろしくお願いします!」
ま、バイトの挨拶なんて、そんなものである。
とりあえず、その日店内にいた人物は、働かないかと声をかけてくれたDさん。
そして、お初目にかかる、Nさん。
そして、オーナーのMさん。
オーナーが若い女性とは想像していなかったため、正直言って、かなり警戒してしまった。
マウスキーは若い女性が大変苦手なのだ。
だが、仕事を始めれば、人間関係の事なんか二の次だろう。
そんなわけで、最初にお弁当を詰めるという仕事から教えてもらう事となった。
……なったのだが、その光景は想像していたよりも凄いものだった。
まず、Dさんが、カウンターの椅子に座りながら、「玉子焼きの数が一個足りんで」と言い出したのである。
「足りんだったら、大きい玉子焼きを二つに切ったらいいが」と、オーナーのMさん。
そんなわけで、カウンターの椅子に座りながら、Dさんは元々詰めてあった、大き目の玉子焼きを二つに切り分けはじめた。
まぁ、まぁ、確かに、平均年齢が60~70歳代という仕事場なのだし、ほっ○亭(マウスキーの最初のバイト先)のように、システム的な仕事をするわけはないだろう。
玉子焼き問題が解決した後は、お弁当と定食を詰めていく作業も順調に終わった。
一日に用意するものは、日替わり弁当を10個、定食を12食分だそうだ。
なんて楽な仕事場!
ほっ○亭なんて10個×10セットを作って用意するなんて、当然の事だったというのに!
しかし、気になるのは売上の方だ。
日替わり弁当は、500円。
日替わり定食は、600円。
どちらも税込みである。
計算してみると、500円×10個=5000円。600円×12個=7200円。
つまり、全部売り切れた場合の売り上げが12,200円という事である。
そこのお店は、NPO法人であるという事も聞いていたので、もしかすると、売り上げを出してはいけない取り決めでもあるのだろうか、そんな風に解釈した。
ところで、仕事が始まる前に、オーナーのMさんから注意を受けるというシーンもあった。
若い女の人なので、どんな仕事の説明なのか緊張して聞いていたところ、こういうことだった。
「スマホは持っててもいいですよ。ただし、12時から12時半はピークなので、その間は絶対にスマホをいじらないでください」
聞き間違いじゃないかと耳を疑った。
12時から12時半がピークって、ピークが30分しかない、という事と、スマホを持っていて、仕事中につっついても可能だという事、色々な事に驚きと衝撃を受けてしまった。
いや、想像以上にゆるい仕事場だ…と思っていた矢先である。
疲れたと言い出したDさん。
カウンターの椅子に腰かけて一休憩をはじめてしまった。
そして、スマホをつつき始めるDさん。
ちなみに、Nさんは午前中で帰ってしまったので、イマイチどういう方なのかは分からないままであった。
そして、迎えたピークだと聞いていた12時になった。
つづく。