2020年5月3日日曜日

PLATFORM・18 〜木の祭り─後半戦

午後になるにつれ、Mさんの読みは当たった。

ちらり、ほらりと人が多くなってきた。

そして、フライドポテト作戦も大成功だった。

ハンバーガーを買う人間は、自動的にフライドポテトも買うし、コーヒーも買うのだ。

それだけではなく、お昼のおかずにするために、おでんの購入も思ったよりもあった。

ハンバーガー、フライドポテト、コーヒー、おでん・・・

一体何個売ったんだ? 何を、何個売った?

正の字の書く場所、間違ってないか? ここであってるのか?

もはや、人が多くなってきた途端に、あれほど自信たっぷりにカウントの腕を自慢していたマウスキーは、数の把握がいい加減になってきてしまった。

フライドポテトを買った後で、追加で買って行く人間もいた。

とにかく、フライドポテトが馬鹿ほど売れていくので、何度も何度も店内に走って行って補充しなければならなかった。

その店内はというと、イケさんとナカさんが地獄の真っ只中にいるかのような形相で、延々とフライドポテトだけを揚げ続けていた。

フライドポテトを揚げ続ける作業に苦しくなったのか、時々ナカさんがフラリと厨房から出てきて売り場に顔を出し、揚げ物を放棄する瞬間も見られた。

それほど大繁盛して忙しかったのである。

きっと、Mさんの「とにかく目立つ!」というコンセプトの元に作られた、あの大きな垂れ幕が一役買っていたに違いない。

そんな忙しい真っ只中の時の事である。

隣でハンバーガーに挟むためのハンバーグを焼いていたMさんが、苦笑を浮かべながら「来たで」と口走った。

あまりの忙しさに周囲が見えていなかったマウスキーは、一体何が来たのだろうとビックリして周囲を見渡したところ、嬉しそうにヘラヘラ笑いながら、Hさんがやって来た。

久しぶりでHさんを覚えていない方もいると思うので、今一度紹介しておく。

平凡、俗物、凡庸という言葉を具象化し、二本足で歩かせたような人物、それがHさんである。


認知してもらっている事が嬉しいらしく、忙しい時にやたらとかまって欲しがるHさんは、やって来るなりホットコーヒーを注文した。

この時点で、ハンバーガーやおでんを注文するなら、まだ歓迎していいのだが、何かとケチなHさんは、基本的にPLATFORMに顔を注文出す時は、コーヒー一杯だけで接待して欲しがるのだ。

しかも、ハンバーガーを作るのに忙しくしているというのに、ホットコーヒーだけ注文するというのは、非常識もいいところだ。

怒りを感じながらホットコーヒーを用意し、Hさんに差し出したところ、奴はこう言った。

「ミルクと砂糖も入れるよ〜」

ポケットに手を突っ込んだまま、上から目線で喋るHさん

こんなに人を殴りたいと思うほどイラッとする事は、今まであまりなかった。
そう、あの美○という喫茶店にいた時ですら、こんなイラつきを感じた事はない。

怒りを押し隠しながら、マウスキーは大人な態度で、ミルクと砂糖をHさんの前にポイと置くと、「どうぞ」と言って、他のお客さんの接客を続けた。

すると、横からHさんは「入れてくれないの〜ッ」と、絡んできたので、「はい、セルフです」と言い切った。

しかし、実はセルフではなく、みんなには要望を聞いて、親切に砂糖やらミルクを入れて、混ぜたものを渡していた。

これが大人の嘘である。

とにかく、一番忙しいピークの時に、Hさんは現れ、コーヒーを注文したという事ですら、邪魔をしに来たように感じられた。
とことん損な人間だなと関心する。

気がつけば、パンも底をつき始め、かなりの量を売り切っていた。

見たところ、おでんより、ハンバーガーが売れていたようだ。

この戦い、ハンバーガーの勝利となった・・・だが、問題が残った。

木の祭りの終了後、Mさんは大盛況だったので機嫌良さそうにしながら、マウスキーが一生懸命にメモしていたカウントを確認した。

「数はこれでいいよね?」

──え? 正の字って何の事?

マウスキーは驚いてメモを見た。

そう、あまりの忙しさに、途中から正の字で売れたものをカウントするという業務を忘れていたのである。

平に謝りながら、記憶を元に必死に正の字を書き足してながら、カウントする事の難しさ、レジスターという存在の偉大さを切に噛み締めたのであった。


つづく。

⇒PLATFORM・19 〜木の祭りが終わった後で

2020年5月1日金曜日

PLATFORM・17 〜木の祭り─前半戦

とうとう祭りは来た──。

Mさんは一人で大きな垂れ幕も用意し、準備万端の様子であった。

その垂れ幕に書かれていた文字は、あれである。

ハンバーガー VS おでん

それは、いざ垂れ幕で見ると、少し恥ずかしさを感じるものだった。

「とにかく、如何に目立つかが重要なんよ」と、Mさんは自信たっぷりに言うと、早速、自ら店の前に垂れ幕を設置しはじめた。

他にも、諸々の材料や、ハンバーグを焼くためのホットプレートや、色々な材料も自前で用意していた。

極めつけには、オモチャの綿菓子製造機までも設置した。

確か、購入金額に応じて、無料で綿菓子をセルフで作っても良いという子供向けのサービスだったと思う。

机を2階から持って降りたり、ホットプレートのセッティングやらを完了させると、戦闘準備が完璧か最終チェックを行った。

「後は、売った個数を間違えんことや」と、Mさんが言ったので、すかさずにマウスキーは自信たっぷりに答えた。

「任せて下さい。数を数える事には自信があります。正の字でバッチリと記入しておきますよ!!」



一体、どうしてあの時、自分はこれほどまでに自信に満ちあふれていたのか、今では分からない。
もしかすると、Mさんの準備が万端であり、大きな垂れ幕の力強さも相まって、無駄に自信がついていただけだろう。

とにかく、この時のマウスキーは、数の間違いなど1つたりともするはずがない、しないのが普通だとも思っていた。

さて、そうこうしている内に、とうとう祭りが始まる時間帯になった。

人の数も、チラリ、ホラリと見え始めた。

PLATFOEMは、場所的には歩行者天国のスタート地点に位置しているため、その場所が客寄せに有利となるか、不利となるかは、微妙なところだった。

とりあえず、人はスタート地点から、いきなりハンバーガーを買ったり、おでんを買ったりはしないだろう。

一旦は祭りの様子を買ったりぐるりと見ようとするに違いない。

まさしく、始まりの瞬間は、肩透かしを食らった。

まるで、川を仲良く泳いでいくメダカ達を目で追うように、マウスキーとMさんは人々が祭りの中心部へと流れていくのを見守っていた。

まぁ・・・こんなものだろう。

ちなみに、紹介もしなかったが、とりとり市の夏には傘踊り祭りというものがあり、その時の祭りにもPLATFORMは参加していたらしいが、マウスキーはこの祭りの時には参加していなかった。

この時は、Dさんがまだ店に健在だったので、店の手伝いはDさんの姪っ子達が手伝っていたそうだ。

Dさんの姪っ子は、なかなかのギャル子だったらしく、男がわんさかと群がり、それなりに大盛況だったという。

メダカのように流れる人間を見送りながら、マウスキーは何故だかそんな話まで思い出してきてしまった。

これが、ギャル子と三十路の格差なのか──と。



殆ど寄り付かない人たちを眺めている間も、Mさんはそんな事も想定内だという表情だった。

「いったん祭りをまわってウロウロした人間は、確実にこっち側に戻って来る。その時はお腹も好かせていて、手頃に食べれるハンバーガーやフライドポテトを所望するに違いない」という読みであった。

記入漏れをしていたが、食べ物のメニュー以外にも、ホットコーヒー、アイスコーヒー、オレンジジュースなどのドリンクメニューもあったので、これらも併売につながるはずである。

つまり、PLATFOEMの勝負は、前半ではなく、後半にかけたものだったのだ。

そうして、Dさんもいなくなっている今は、秘密兵器のようなギャル子もいないまま、いよいよ後半戦へと突入していった。


つづく。

2020年4月28日火曜日

PLATFOEM・16 〜木の祭り計画

実は、以前からMさんが「2階のスペースを使ってコンサートは出来ないか」のという話を耳にしていた。

最初にその提案を聞いた時は、笛の会のコンサートも無事に終了し、少し調子づいていた時の事だったので、「出来ると思いますよー」と、軽いノリで答えていた気がする。

しかし、次にその話題が出た時は、状況がずっと変わっていた。

それは、hatao先生の元へ一日集中レッスンという名の武者修行に出かけた後の事だったからだ。

「いやいや、とんでもない。コンサートを完璧なものにするなんて、1年と言わず、2年とかかる。絶対に無理です」

と、マウスキーはMさんに強固としてコンサートの依頼を断るという事をした。

実際、自分のレベルの低さに少し落ち込んでいた時期なので本心から無理だと思っており、「そうなんだ、そんなに大変なんだ・・・」と、Mさんも腑に落ちなかっただろうが、何となく納得してくれた。

その為、この話題は当分はMさんの口から出る事はなくなった。

そんな事よりも、PLATFOEMは、来る11月初旬に「木の祭り」というイベントに向けて、準備を始めていた。

全く何の責任感もない、マウスキーと、Nさん(次回からナカさんと表記)、少しは責任感があっても良さそうなIさん(次回からイケさんと表記)の三人は、企画の提案をする気もなく、ぶらぶらと過ごしていた。

そんなやる気のない我々を相手にもせず、Mさんは学んできたマネジメントのアイデアを実践すべき計画を立てていた。

そして、とうとう木の祭りでのPLATFOEMのコンセプトが決定された。

店の名物として売り出したい、とりとり和牛のハンバーグと、実は隠れたファンもいる店のおでんを対決させる、というものであった。

そう、Mさんが決めたコンセプトは、

ハンバーグ VS おでん

であった。



ハンバーグとしては屋台メニューに適していないため、ハンバーガーとして売るという案。

サイドメニューにはフライドポテトも用意する事になった。

ハンバーガーにはフライドポテトが当然欠かせないのは分かる。

「いいっすね、いいっすね!」と、マウスキーは賑やかなコンセプトにすっかりテンションを上げた。

今までやる気がなかったが、このコンセプトには俄然やる気が出た。

ハンバーガーとおでんは500円。
フライドポテトは1カップが150円。

なかなか屋台飯にしてはお手頃価格に設定していたと思う。

当日の前には、Mさんが試作品を作ってくれたので、早速食べたが、屋台飯とは思えないほどヘルシーで美味しいものだった。

これは絶対に売れる!

ハンバーガーもご馳走してもらったマウスキーは、完全にMさんの為に出来る事は尽力しようと決意した。

それに、引きこもりで不登校児であったマウスキーは、高校も通信校通いであり、学芸祭的なものには無縁の人間だったので、祭りの参加というのは新鮮で初めての経験だったので、それは準備段階でも貴重で楽しい経験となった。


つづく。

2020年4月26日日曜日

マスク作りからの逃避行

ブログではあまり語っていなかったが、マウスキーは洋裁が好きだ。

しかし、今の世の中で、洋裁を愛している人間にとって、非常に苦難の時である事を、皆さんがご存知だろうか?

何が大変かというと、実は、今の世の中で、あるもの以外に生地が使えないという現状なのである。

そう、あるものとは、マスクである。

洋裁に多少なりとも心得のある人間は、家の押入れにしまい込んでいたミシンを取り出し、マスクを作らなければならない世の中となっているのだ。

──ドレスが作りたい、3匹の新しい服が作りたい、洋裁の勉強に使うための生地が欲しい──

そんな事は、この、マスク戦争の戦時下では決して思ってもいけない事だ。

洋裁が出来るくせにマスクを作らないなんて奴は、非国民として即軽蔑の的になるに違いない。

結局、世の中のこんな風潮に負けてしまい、マウスキーも洋裁の心得がある人間として、人並みにマスクを作る事とした。

普通のマスクを作るだけは悔しいので、刺繍ミシンで猫の顔の刺繍入りマスク

これで、胸を張って洋裁をしていると言えるし、他のものを作ったらいいんじゃないか、そう思う人もいるだろう。

しかし、そんなに事態は簡単な事ではない。

マスク作りが奨励され、国をあげてのマスク作りが盛んとなってしまった今、大問題が起こっているのだ。

その問題とは、以下のものである。

・新品のミシンの在庫がない。
・生地がない。
・糸がない。
・まち針がない。
・ピンクッションもない。
・手芸店が休業。
・ゴムがない。

マスクどころか、糸がないのでは服なんか作れない。
最寄りの手芸店はどこも閉まっている。

挙げ句に、マスク作り功労賞を貰えるんじゃないかと思えるほどに、マスク作りに貢献している人達は、白い糸、生成りの糸、黒い糸などから、薄い色から攻めていって糸を買い尽くしているらしい。

ちなみに、手縫い糸もない──。

やってられるか!!

そんな苦境のせいで、完全に洋服作りにやる気をなくしたマウスキーは、久しぶりにマスク以外の物を作る事にした。

実は、マウスキーにはミシンを購して以来、ずっと習っているミシンの師匠がいる。

本日は師匠の元に行き、畳ヘリの鞄と、糸立ての作り方を習って作成してきた。

こちらが糸立て。

業務用の太巻きの糸や、刺繍ミシンの下糸をロックミシンの糸を使ってボビンに巻く時などに便利な品物だ。

そんなわけで、ぼちぼち業務用の糸も、マスク作りの犠牲になっていくだろう。

そして、こちらが畳ヘリの鞄。

ジャーン
今回は刺繍ミシンで刺繍も入れてみた

横にはサイドポケット

内布は青色にした。
キーケース、財布、スマホが入るくらいの大きさ

久しぶりにマスク以外の物と向き合えて、クリエイティブな事をしているという充実感に満ちた時間をしている過ごす事が出来た。
これで、すっかり精神的にリフレッシュする事が出来た。

日々、思考の3分の1はマスクで占められているためか、非常に貴重な時間であった。

だが、明日からは再び、マスクの型紙と睨み合う事だろう。

布と糸が尽きる、その時まで・・・・


〈おまけ〉

撮影中、何度も邪魔しに来た茶々丸。

完全に妨害

自分が撮影されている気分らしい

自分が入れる大きさか検討し始める茶々丸

挙げ句の果てに大あくび

すごく邪魔されたのに、可愛いから怒れなかった。

可愛いっていうのは無敵だ。

2020年4月25日土曜日

アイリッシュ入門の旅・10 〜レッスンのおわり

レッスンが終わった後、学んだ事で色々と聞き逃した事があるかもしれないと不安に感じたマウスキーは、再びレッスンをしてもらえるように、hatao先生にお願いをしてみた。

「いいですよ」と、hatao先生は答えてくれたが、驚くべき事に、日程が見事に合わなかったのである。

マウスキーも、姉マウスキーも、hatao先生も、当然年末は忙しい時期なので空いていない。

残念ながら、何かまた困ったり分からない事があったら、連絡フォームからレッスンを申し込む事にしようという事になり、とうとう帰宅する事になった。

「お世話になりました、練習を頑張ります」と、誠心誠意の感謝の意をhatao先生に伝えると、やっとの事で修行を終えて下山した。

とは言っても、歩いたのは先生に教えてもらったバス停の場所までである。

上り坂がキツいという事は、下り坂もキツい。

つま先が痛い。


その後は、バス停に乗り、駅に着いたら電車に乗り、タクシーであの何もないバス停まで送ってもらった。

その間の記憶が殆どないほど疲労していた。

しかし、誤解がないように言わせてもらうと、一日集中レッスンは大変身になるし、地獄のようにハードだと連呼していたが、個人差を伴う事だとは思う。

マウスキー姉妹のように基本的に集中力が散漫な人間にとって、一日集中型がかなりキツかった、それだけの事だ。

もちろん楽しかったし、新しい事を覚えるというのは面白い事である。

きっと上達もするはずなので、疲れ切ったけれども今でも一日集中レッスンを耐え抜いて良かったと思っている。

ただ、問題が今残っているとするならば、習った内容があまりにも膨大なものを凝縮して習ったので、数年経った今でも、再び先生に習うような疑問を見つける事も出来ず、習った全ての技術を昇華出来ずにいる。

そして、何よりもケルト音楽は好きでも、輪の中に入ってセッションするのは、人混みが嫌いなマウスキーにとっては憧れるが、実践したいと思わないものである事。

向き不向きは絶対にある。

結局、現在は装飾音とアイリッシュ奏法を混ぜこぜで笛を演奏する事を楽しんでいて、趣味の範疇におさまってしまった為、本格的にアイルランド音楽を極める気が全くない。

そして、「色んな演奏を聴くのが上達の一歩」という言葉の通り、手当り次第にCDを聴いて、地味に新しい曲を覚えて演奏する事が出来るようにもなったので、一日集中レッスンはとても大きな存在となった。

hatao先生には、一日という貴重な時間を削り、丁寧に教えていただいた事を深く感謝している。


追記

そういえば、hatao先生は我々マウスキー姉妹が行くまで、老人の姉妹が訪問すると思っていたらしい。

想像していたよりも若い姉妹で驚いたそうな。

先生があまりにも高齢の女性慣れしているせいか、マウスキー姉妹がメールで送った文章のせいか、それは未だに定かではない。

ちなみに、以下がレッスンの前に送ったメール分である。

おはようございます!

10月5日の自宅レッスンを申し込んでいました、マウスキーです。
当日ですが、順調にいけば、先生のお宅には11時頃にお伺い出来るかと思います。

テキストは『ティン・ホイッスルを吹こう』を最後まで目を通して、『地峡の音色』はカットやタップの練習をしているところです。
技術に躓きつつ、自分のピッチの悪さに驚愕している次第です。

姉妹ともども、どうぞよろしくお願いします。」

今見直した。

「地球の音色」を「地峡の音色」と誤字があった。

今更だが穴があったら入りたい。

おしまい。

2020年4月24日金曜日

アイリッシュ入門の旅・9 〜 とどめの初見大会

やっとの事でレッスンも終わり、頭痛で意識が朦朧としていたところ、hatao先生が嬉々として、「Hector the Hero」というタイトルの、アンサンブル譜に編曲してある楽譜を渡してくれた。

こんな曲です⬇ ※編曲は違うものでした
https://celtnofue.com/play/download/download_detail03---id-515.html

「リコーダー・アンサンブルをされているんですよね。これは、ティン・ホイッスルのところをソプラノ・リコーダーで代用出来るし、ロー・ホイッスルのところをテナー・リコーダーで代用する事が出来ます。コードも書いてあるので、ピアノが出来る人や、ギターが出来る人に伴奏を頼めますよ」と、いう事だった。

そして、「僕がフルートでロー・ホイッスルのところをしますので、やってみましょう!」との事だった。

疲れているので嫌です、勘弁して下さいと、この時に誰が言えるだろうか。

せっかくのhatao先生とアンサンブル出来るチャンスなのだから、血を吐こうが死のうが、吹きたいのが笛吹きである。

と、いうわけで、ギリギリだったけれども、挑戦してみる事にした。

とりあえず、何でも矢面に立つのが嫌いなマウスキーは、1ndは姉マウスキーに快く譲る事にした。

そんなマウスキーの様子を見て、hatao先生は、「1ndも2ndもそんなに変わらないですよ」と真顔で言っていた。

その言葉は嘘ではなかった。

どのパートも、平等に矢面に立たなければならないように出来ている編曲だった。

しかも、初見大会にしてはレベルが高かった。

リコーダーに持ち替える事が出来るならまだしも、運指が危ういティン・ホイッスルでこのレベルを初見なんて鬼だった。

そんなわけで、言葉数が少なくなってきたマウスキー姉妹は、この曲の初見をもって、全てのエネルギーを使い果たしてしまったというわけである。。

疲れた・・・集中力の限界を見た。

一日集中レッスンとは、己の限界に最大限まで挑みをかける、そんなレッスンであった。

そして、レッスンというものが、どうして大体1時間くらいで割り当てられるのか、そういう理屈も理解が出来た。

集中力を保てる時間が、そのぐらいに違いない。

休憩時間も殆どなく、ぶっ通しで新しい事を覚えていくというのは、正気の沙汰ではない。

──甘く見ていた・・・こんなに疲れ切ったのに、マウスキー達はまたあの複雑な道を後戻りして、とりとり市の自宅まで帰らなければならないのだ。

そして、くたびれきったマウスキー達のために、hatao先生が最後にしてくれた事は「なにかリクエストはありますか?」という、仏のような一言であった。

一気にリフレッシュするマウスキー姉妹。

生演奏で聴きたいものはたくさんある。

ティン・ホイッスルを習いに来たくせに、聴きたいのはモンマルカピーパという笛の演奏か、柳の笛の演奏だった。

⬇参照、モンマルカピーパ⬇
https://www.youtube.com/watch?v=3YWomS8BBog

⬇参照、柳の笛⬇
https://www.youtube.com/watch?v=L3T0ynnuo0g

どちらかと言えば柳の笛がいい、と、マウスキーが思っていたところ、姉マウスキーが姉心からなのか、マウスキーの要望を優先してくれたのである。

「柳の笛の曲がいいです」

hatao先生は早速柳の笛を習い取り出して演奏してくれた。

その素晴らしい演奏を聴き、すっかり感動したマウスキーは心に決めた。

──柳の笛を買おう──と。

演奏が終わった後、hatao先生は「笛で遊んでも良いですよ」と言ってくれたが、夜も更けてきたし、疲れ切っているので、柳の笛が簡単に音出し可能か確認するだけで、マウスキー達はそれ以上の事は出来なかった。

そう、その疲労感と外の空の暗さが、hatao先生とのお別れのタイミングを物語っていたのである。

つづく。

2020年4月22日水曜日

アイリッシュ入門の旅・8 〜肝心なところで集中力がなくなってくる。

基本的な奏法を学んだ後は、変奏についてを学んだ。

コード内での変奏の仕方、色々なパターンなどなど・・・。

それから、「では、やってみましょう」と、実践する。

「自分が思ったようにして下さい」とhatao先生に言われるのだが、リコーダーの演奏を繰り返しの時にちょっと変えるのとは訳が違うため、思うように出来るものではなかった。

結局、先生が例として「こんな風に演奏出来ます」と言われた通りの事しか出来なかったのだ。

決められた範囲で自由にする──これほどまでに難しかったとは・・・。

それから、「Britches Full of Stitches」という曲をする時は、「これは簡単な曲なので、楽譜を見ずに聴いて覚えましょう」という新しい試練が出た。

8小節で出来た「赤とんぼ」の曲をする時ですら、楽譜を外したくないというのに、とうとう耳で聴いて覚えというミッションである。

そんな事が果たして可能なのだろうか──と、不安に感じたのだが、実際にそんなに複雑な曲ではなかったので覚えてしまった。




覚えたはいいのが、「このようなパターンで変奏します」というhatao先生に教えてもらった以外の事は、一つたりとも出来なかった。

あとは、ダンス曲のリズムの取り方についても学んだ。

リール、ジグ、ホーンパイプ、ポルカ、マズルカ、ワルツ・・・・・

途中、意識が飛んだ。

ホーンパイプの頃から集中力はかなり切れていた。

もう限界かなって思ったほど、頭も痛くなっていた。
hatao先生は喜々とした顔で、「僕はホーンパイプのリズムが機関車のタッカタッカ、タッカタッカみたいな感じのイメージを持ってます」的な事を言っていた事をボンヤリと記憶している。

奏法、変奏の仕方、ダンス曲のリズムの取り方、一通りの基礎を駆け足で巡り終わり、やっとの事でのブレイクタイムである。

ちなみに、この時はすでに夕方になっていた。


つづく。

2020年4月21日火曜日

アイリッシュ入門の旅・7 〜お昼休憩

「お昼はどうされますか?」と、hatao先生が最初に質問してきた。

実のところ、このお昼ごはんについてはリサーチ済のマウスキー姉妹であった。

レッスンに行く前に、hatao先生のレッスンを受けてきた事がある人のブログを読んで予習していたのだ。

ちなみに、その人の文面から、これほどまでに一日集中レッスンがこれ程までにハードなものだとは想像もつかなかったのだが。

その人は、お昼ごはんはhatao先生が作ってくれたと、大層嬉しそうに語っていた。
しかも、大変美味しい食事だったとか・・・。

ところが、実際に本人を目の前にして、「先生に作ってもらおうと思って来ました!」などと言えるであろうか。

「えーと、適当に食べてきます」と、言って、お昼休憩の間はどこかに出かけて食べて来るのが礼儀ではないか・・・などと、一瞬の内に考えを巡らせた。

「実はインターネットでhatao先生が食事を作ってくれたというブログを見て、楽しみにして来ました」

そう恥ずかしげもなく言い放ったのは、姉マウスキーであった。

嘘だろ? この状況でなんの遠慮もなく、そんな言葉を見ず知らずの先生に言えるなんて、どんな神経しているんだ!

きっと、先生は呆れ果て、もう何も言わない事にしよう、礼儀知らずの田舎者が──と、随分気を悪くされるかもしれないじゃないか!

そう危惧したのだが、実際はそれほど先生は気分を害した様子もなかった。

「もちろんいいですよ」と、快く我々見ず知らずの姉妹にもご飯を作ってくれる事になった。
レッスンもしてもらい、食事をルンペンさせてもらうなんて・・・申し訳ないが、美味しい食事だったと言っていたので、随分と美味しいごはんなのだろう。

「せっかくなので、持ってきていただいたお茶漬けもいただきましょう」と、hatao先生の提案。

「いやいや、お土産を我々がいただくなんて・・・」と、言いながら、一緒にお茶漬けを食べる事になった。

あと、汁物とおかず。

その日のメニュー。

一汁一菜、玄米ごはん

デザートはリンゴ。

美味しい!・・・美味しいけど・・・足りない・・・ものすごく足りなかった。

確か、この食事時間の間、ウサギさんについて、我々のペットについて、それぞれのペット自慢をしたり、hatao先生の好きな音楽についても会話したと思うのだが、圧倒的な食事量の少なさが一番のインパクトとして残ってしまったため・・・申し訳ないのだが、詳細には記憶していない。

しかしながら、せっかく我儘を言って作っていただいたご飯が少ないなんて、絶対に悟られてはいけない。

「とても美味しかったです、ちょうど良い量でした」

ちゃんとそのように言う常識くらい、我々マウスキー姉妹は持っていたのである。

楽しい食事時間が終わりを迎えようとしていた時、hatao先生と同居をしている男の人が帰宅してきた。

ギターが堪能で、笛まで出来るという人だった。

「そんなに出来ませんよ」とか言っていたが、あれは謙遜に違いない。

その時、レッスンに来る生徒さんは久しぶりだ、などという会話もしていた。
先生がテレビで出演した頃は、わんさかと生徒さんが盛りだくさんに来訪されたそうなのだが、若い人が来る事は少ない事例だ──的な内容だった。

先生と年の差が大してあるわけでもないのに「若い人」という単語を受け入れるには抵抗はあったが、きっと「高齢の方」と比較しているのだろうから、それも間違いではない。

我々はまだ、赤いちゃんちゃんこを着るまでには年数がある。

そんな風に楽しいお昼休憩は終了した。

ところが、この時点で恐ろしい事が起こっていた。

午前中の集中レッスンから、すでに集中力が散漫になりはじめていたのだ。

まだ先は長いというのに、もはや疲労の兆しが見え、とりあえず一通りの奏法を学んで帰れるのだろうかと心配になってきた。

だが、容赦なく、一日集中レッスンは継続した。

つづく。

2020年4月20日月曜日

アイリッシュ入門の旅・6 〜とにかく詰め込め、スパルタレッスン

最初に、レッスンで使用した楽譜がこちらである。


https://celtnofue.com/items/detail.html?id=527

内容は易しいながらに、参考音源などもあり、手応えのある一冊であったと思う。

しかし、元々がリコーダー出発であるマウスキー姉妹は、「楽譜は読めるんですね?」というhatao先生の質問に、「はい、読めます」と即答。

この楽譜は、色々と触ってみるくらいのものとなってしまった。

とりあえず、二重奏譜もあったので、一緒にhatao先生と一緒に演奏してみたりなどもして、それなりに楽しい時間を過ごした。

ちなみに、マウスキーはそつなくこなそうとしたくせに、楽譜と違う事を吹いてしまった挙げ句、hatao先生がフッと笑い「マウスキーさんのアレンジが良かったですね」と褒めていただいた箇所すら理解が出来なかったという醜態をさらしてしまった。

何を間違えたのかわからなかったのため、「あ、すみませんでした」とだけ答えた。

しかし、楽譜を読む事をおろそかにして違う音を吹くという事は、アイリッシュの世界では特に何も問題はなかったようである。

マウスキーの薄っぺらい謝罪もスルーされてしまった。

この小冊子が終わった後に使用した楽譜は、「地球の音色」というものである。

この楽譜は、今は廃盤となり手に入らないようだが、この時の楽譜よりも、ノウハウを詰め込んだ新しい楽譜が今は出ているという事だが、当時はこの楽譜しかなかったのだ。

この一冊の中に記入してある、アイリッシュ奏法のノウハウを、数時間の間に詰め込んでいかなければならないので、それこそ立ち止まる事なく急ピッチで修行を続けた。

まず最初は、アイリッシュ音楽の歴史を学ぶ事から始まった。

アイリッシュにおいての音階は平均律ではなく・・・云々。

バグパイプが元となっているため、奏法もバグパイプを模した奏法が用いられ・・・云々。
(この時、hatao先生がバグパイプの演奏をして見本も見せてくれた)

そして、何より少し衝撃を受けた話は、音楽理論についての話であった。

「ハーモニー、モノフォニーがありますが、アイリッシュはどちらでもなく、ヘテロフォニーです」

ヘテロフォニーとは、大勢で同じメロディーを自分の好きなように演奏するのだそうだ。

なんだそれ、楽しそうじゃないか!

そして、そんな楽しい話から、だんだんと実践的な奏法の話になってきた。

基本的な奏法は、カット、タップ、ロール、スライドといったものがあり、それを自分なりのセンスが組み合わせるのだという。

通常のレッスンであれば、それらの技術の精度を上げるべく練習なんかも入ってくるのだろうが、一日特急レッスンとなると、そんな精度をあげる時間などはない。

兎にも角にも「やってみましょう」とhatao先生の穏やかな言葉を合図として、楽曲を演奏しなければならないのである。

これが思った以上に難しい。

最初からそんなにすんなり出来るわけがない。

hatao先生に「ここはこんな風にしましょう」と指定してもらっても、精度が悪いカットやタップを入れるので精一杯である。

ロールってタラリラリッとくるっと回る、ピアノでお馴染みのあれとは違うのか?

こんなやつ


基本的には、カットとタップを組み合わせたものがロールとなるらしいが・・・上に上がって下に下がるのは同じように思えるのだが・・・違うのか?

その奏法の話をしている時に、そんな疑問を持つだろうという事は、hatao先生にも分かっていたらしい。

「カット、タップ、ロールなどは装飾音ではないんですか? という質問もありますが、装飾音というのは、メロディーに華やかさを持たせるため等に用いられる装飾の事ですね。
アイリッシュ奏法ではバクパイプの奏法を模していると最初にも説明していました。バクパイプは音の切れ間がないため、音と音との間を区切るため、カット、タップ、ロールなどを用いて演奏するため、この場合は装飾音ではなく、演奏するための奏法となります」

実際はもっと丁寧できちんとした説明だったと思うが、大体こんな感じの説明をしていただいた。

なるほど、分かりやすい。

しかも、当然完全に自由気ままになんにでもカット、タップ、ロールを入れるわけではなく、それなりに定められたルールというものもあるようだ。

きっと、年間を通じて通うタイプのレッスンであれば、こういった事も確実になるまでレッスンしていただけたのだろうが・・・我々にある時間は、たったの数時間なので、このあたりも納得した後は、サラーっと流して、次の段階へと行かなければならないのである。

立ち止まる時間など、我々にはない!

と、意気込んでいたが、お昼の時間になったら、それなりに休憩を取らなければならない。

大変密度の高い1時間半ほどを過ごした後、やっとの事で休憩時間となった。


つづく。

2020年4月19日日曜日

アイリッシュ入門の旅・5 〜チューニングが肝心

レッスンの最初は、持参したティン・ホイッスルをチューニングするところから始まった。

マウスキー達が購入したティン・ホイッスルは、Feadog社のニッケル製のD管である。

⬇ こちらの商品を購入した。
https://celtnofue.com/items/detail.html?id=316

真鍮製と、どちらが良いか悩みはしたが、リコーダーを愛する人間として、くすんだ素朴な音の楽器より、安定して透明感のある音を選んでしまったのである。

この商品を見ていただいても分かる通り、チューニングするためにはキャップを外すしかない。

だが、接着剤でついているので、簡単にキャップを外す事など出来ないのである。

ピッチがおかしいようなのに、どうにも出来ず、このままなのかと思っていたが、同ホームページにて、「お湯にキャップをつける事で、キャップを外す事が出来るので、チューニングが可能です」といった内容の記事を見つけた。

悩みのチューニングも、これで解決だ──と、マウスキーは早速言われた通りに熱湯にキャップを浸けて、難なく外す事が出来た。

しかし、今度はキャップがゆるくなり過ぎて、どうにもならなくなってしまった。

とりあえず、この方法を姉マウスキーにも教えてあげようと思ったマウスキーは、早速情報の共有をしようとした。

しかし、マウスキーが駆けつけた時には、すでに姉マウスキーはキャップを外していたのである。

そして、クールな表情のまま「簡単に外れたで」と言ってのけたのである。


握力に物を言わせてキャップと筒を分離した姉マウスキーではあったが、結果としてはマウスキーと同じ事であった。

キャップが少しゆるくなったので、思ったようにチューニングを合わせる事が出来なかったのだ。

そういった経緯で、まずはhatao先生にこのチューニングについての相談をしたというわけである。

話を聞き終わったhatao先生は、少し薄く笑うと、「力づくで外れたんですか? すごいですね」とコメントした。


チューニングは、自分が吹き込む息の量に合わせてするようで、チューナーと睨めっこをしながら、ちょうど良いところを模索するという地味な作業から始まった。

これが、なかなか時間がかかった。

いつもいい加減な感じで済ませていたリコーダーとはわけが違い、かなりきっちりとしなければならないようだ。

それから、時間がかかったものの、「ここがちょうど良いようです!」というところに達した時、ティン・ホイッスルをhatao先生に渡し、ゆるくなったキャップも調整してもらい、やっとの事でまともな楽器を手にする事が出来た。

これをまるっきり二人分を行い、まともな音階が吹ける事を確認し、やっとの事で演奏が可能な状態となった。

さて、これからが本当のレッスン(修行)の始まりである──。

つづく。

2020年4月18日土曜日

アイリッシュ入門の旅・4 〜正体を明らかにする

出迎えてくれたhatao先生に、我々は念入りに選んだ、とりとり市のお土産を渡した。

今から思うと、先生のことをもっと知っている人なら、先生が自身で料理をする程に、オーガニック思考を持っていることを配慮して、決して添加物たっぷりのお茶漬けの素など持っていくことはなかっただろう・・・と、今は後悔すら感じる、そのお土産を手渡した。

先生は特に何も言わず、快くお土産を受け取ってくれたので、その時の我々は「受け取ってもらえた、良かった良かった」程度にしか考えていなかった。

hatao先生の自宅レッスンの部屋は、2階の部屋に用意されていた。

練習室は、事前に2人で来るという事を伝えていたため、二人分の椅子と、机と譜面台を並べて用意されてあった。

我々の椅子の前にはキーボードが置いてある机があり、そこが先生の席のようだった。

レッスンをしに来たというより、勉強しに来たという感じ


かしこまった気持ちで部屋に入った瞬間、マウスキー達は部屋の中に一番に吸引力を持つ存在に気づいてしまったのである。

そう、その部屋にはウサギさんがいたのだ。

なんと、hatao先生はウサギさんを飼育していたのだ!

しかも、ちょうど席の真向かいにウサギさんがいるので、ふと顔を上げた時、ウサギさんが横のなったり、ご飯を食べたり、耳を毛づくろいしている姿を見る事が出来るのである。

そんな風にウサギさんに釘付けになっていた時、姉マウスキーが「最初に自己紹介をさせていただきます」と話を切り出した。
「先生は人に知られていますが、先生は私たちのことが何者か分からないと思いますので、最初にどういう人間なのかを紹介させてもらうのが良いかと思います」

確かに、それは一理ある。

hatao先生も大変人見知りのようだったので、「それは助かります」と言って、我々の自己紹介を促してくれた。

そのあとは、名前を名乗り、身元を明らかにする情報と、どういった経緯で先生のレッスンを受けたいと思ったのか等といった話を始めた。

「facebookですか? Twitterですか?」と、hatao先生は色んなSNSの名前を挙げたが、どれもこれもマウスキーとは縁遠いものの名前であった。

そもそも、ケルトの笛屋さんというホームページにたどりついたきっかけは、笛の会のために新しい楽譜をネットで探していた事が始まりだった。

とりあえず、テレマンとかないかなーと思い、テレマンの楽譜を探していた。

そんな時に、テレマンの有名な曲をティン・ホイッスルで演奏するhatao先生の動画と楽譜に辿り着いたのである。

──この奏法は、一体どういう仕組みになっているのだろう?

よく知っている曲が、全くよく分からない奏法で演奏されているのは、とても面白く感じたため、仕組みを知ろうと思い、楽譜や動画などを手当たり次第に調べる事になった。

しかし、今まで独学は慣れっこだったにも関わらず、アイリッシュ奏法という分野はさっぱり理解が出来なかった。

そこで、引きこもりで人見知りではあるものの、どうしても新しい奏法が知りたいという勢いでhatao先生のいち日集中レッスンに申し込んだ、それだけである。

とりあえず、hatao先生の自宅が、思ったよりもとりとり市に近かったために思い立ったとも言える。

とまぁ、こんな風な出会いについての事を言葉足らずな感じで簡略化しながらマウスキーはhatao先生に伝えた。

そして、何となく正体を明かし、何かしらの納得と安心感がその場に生まれた。

そこで、とうとう一日集中レッスンが始まる事になった。

一日集中レッスン──それは、普通は何度かレッスンに通って教えてもらう技術等を、滅多にレッスンに来れない人のために、一日集中して鬼のように詰め込むというものだ。

このレッスンが終わった暁には、精神と時の部屋から出たような、そんな短期間成長が見込まれるのではないだろうか。

それほどにまで、今思えば集中力の限界に挑んだ修行であった。