Mさんは一人で大きな垂れ幕も用意し、準備万端の様子であった。
その垂れ幕に書かれていた文字は、あれである。
ハンバーガー VS おでん
それは、いざ垂れ幕で見ると、少し恥ずかしさを感じるものだった。
「とにかく、如何に目立つかが重要なんよ」と、Mさんは自信たっぷりに言うと、早速、自ら店の前に垂れ幕を設置しはじめた。
他にも、諸々の材料や、ハンバーグを焼くためのホットプレートや、色々な材料も自前で用意していた。
極めつけには、オモチャの綿菓子製造機までも設置した。
確か、購入金額に応じて、無料で綿菓子をセルフで作っても良いという子供向けのサービスだったと思う。
机を2階から持って降りたり、ホットプレートのセッティングやらを完了させると、戦闘準備が完璧か最終チェックを行った。
「後は、売った個数を間違えんことや」と、Mさんが言ったので、すかさずにマウスキーは自信たっぷりに答えた。
「任せて下さい。数を数える事には自信があります。正の字でバッチリと記入しておきますよ!!」
一体、どうしてあの時、自分はこれほどまでに自信に満ちあふれていたのか、今では分からない。
もしかすると、Mさんの準備が万端であり、大きな垂れ幕の力強さも相まって、無駄に自信がついていただけだろう。
とにかく、この時のマウスキーは、数の間違いなど1つたりともするはずがない、しないのが普通だとも思っていた。
さて、そうこうしている内に、とうとう祭りが始まる時間帯になった。
人の数も、チラリ、ホラリと見え始めた。
PLATFOEMは、場所的には歩行者天国のスタート地点に位置しているため、その場所が客寄せに有利となるか、不利となるかは、微妙なところだった。
とりあえず、人はスタート地点から、いきなりハンバーガーを買ったり、おでんを買ったりはしないだろう。
一旦は祭りの様子を買ったりぐるりと見ようとするに違いない。
まさしく、始まりの瞬間は、肩透かしを食らった。
まるで、川を仲良く泳いでいくメダカ達を目で追うように、マウスキーとMさんは人々が祭りの中心部へと流れていくのを見守っていた。
まぁ・・・こんなものだろう。
ちなみに、紹介もしなかったが、とりとり市の夏には傘踊り祭りというものがあり、その時の祭りにもPLATFORMは参加していたらしいが、マウスキーはこの祭りの時には参加していなかった。
この時は、Dさんがまだ店に健在だったので、店の手伝いはDさんの姪っ子達が手伝っていたそうだ。
Dさんの姪っ子は、なかなかのギャル子だったらしく、男がわんさかと群がり、それなりに大盛況だったという。
メダカのように流れる人間を見送りながら、マウスキーは何故だかそんな話まで思い出してきてしまった。
これが、ギャル子と三十路の格差なのか──と。
殆ど寄り付かない人たちを眺めている間も、Mさんはそんな事も想定内だという表情だった。
「いったん祭りをまわってウロウロした人間は、確実にこっち側に戻って来る。その時はお腹も好かせていて、手頃に食べれるハンバーガーやフライドポテトを所望するに違いない」という読みであった。
記入漏れをしていたが、食べ物のメニュー以外にも、ホットコーヒー、アイスコーヒー、オレンジジュースなどのドリンクメニューもあったので、これらも併売につながるはずである。
つまり、PLATFOEMの勝負は、前半ではなく、後半にかけたものだったのだ。
そうして、Dさんもいなくなっている今は、秘密兵器のようなギャル子もいないまま、いよいよ後半戦へと突入していった。
つづく。
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