ちらり、ほらりと人が多くなってきた。
そして、フライドポテト作戦も大成功だった。
ハンバーガーを買う人間は、自動的にフライドポテトも買うし、コーヒーも買うのだ。
それだけではなく、お昼のおかずにするために、おでんの購入も思ったよりもあった。
ハンバーガー、フライドポテト、コーヒー、おでん・・・
一体何個売ったんだ? 何を、何個売った?
正の字の書く場所、間違ってないか? ここであってるのか?
もはや、人が多くなってきた途端に、あれほど自信たっぷりにカウントの腕を自慢していたマウスキーは、数の把握がいい加減になってきてしまった。
フライドポテトを買った後で、追加で買って行く人間もいた。
とにかく、フライドポテトが馬鹿ほど売れていくので、何度も何度も店内に走って行って補充しなければならなかった。
その店内はというと、イケさんとナカさんが地獄の真っ只中にいるかのような形相で、延々とフライドポテトだけを揚げ続けていた。
フライドポテトを揚げ続ける作業に苦しくなったのか、時々ナカさんがフラリと厨房から出てきて売り場に顔を出し、揚げ物を放棄する瞬間も見られた。
それほど大繁盛して忙しかったのである。
きっと、Mさんの「とにかく目立つ!」というコンセプトの元に作られた、あの大きな垂れ幕が一役買っていたに違いない。
そんな忙しい真っ只中の時の事である。
隣でハンバーガーに挟むためのハンバーグを焼いていたMさんが、苦笑を浮かべながら「来たで」と口走った。
あまりの忙しさに周囲が見えていなかったマウスキーは、一体何が来たのだろうとビックリして周囲を見渡したところ、嬉しそうにヘラヘラ笑いながら、Hさんがやって来た。
久しぶりでHさんを覚えていない方もいると思うので、今一度紹介しておく。
平凡、俗物、凡庸という言葉を具象化し、二本足で歩かせたような人物、それがHさんである。
認知してもらっている事が嬉しいらしく、忙しい時にやたらとかまって欲しがるHさんは、やって来るなりホットコーヒーを注文した。
この時点で、ハンバーガーやおでんを注文するなら、まだ歓迎していいのだが、何かとケチなHさんは、基本的にPLATFORMに顔を注文出す時は、コーヒー一杯だけで接待して欲しがるのだ。
しかも、ハンバーガーを作るのに忙しくしているというのに、ホットコーヒーだけ注文するというのは、非常識もいいところだ。
怒りを感じながらホットコーヒーを用意し、Hさんに差し出したところ、奴はこう言った。
「ミルクと砂糖も入れるよ〜」
ポケットに手を突っ込んだまま、上から目線で喋るHさん |
こんなに人を殴りたいと思うほどイラッとする事は、今まであまりなかった。
そう、あの美○という喫茶店にいた時ですら、こんなイラつきを感じた事はない。
怒りを押し隠しながら、マウスキーは大人な態度で、ミルクと砂糖をHさんの前にポイと置くと、「どうぞ」と言って、他のお客さんの接客を続けた。
すると、横からHさんは「入れてくれないの〜ッ」と、絡んできたので、「はい、セルフです」と言い切った。
しかし、実はセルフではなく、みんなには要望を聞いて、親切に砂糖やらミルクを入れて、混ぜたものを渡していた。
これが大人の嘘である。
とにかく、一番忙しいピークの時に、Hさんは現れ、コーヒーを注文したという事ですら、邪魔をしに来たように感じられた。
とことん損な人間だなと関心する。
気がつけば、パンも底をつき始め、かなりの量を売り切っていた。
見たところ、おでんより、ハンバーガーが売れていたようだ。
この戦い、ハンバーガーの勝利となった・・・だが、問題が残った。
木の祭りの終了後、Mさんは大盛況だったので機嫌良さそうにしながら、マウスキーが一生懸命にメモしていたカウントを確認した。
「数はこれでいいよね?」
──え? 正の字って何の事?
マウスキーは驚いてメモを見た。
そう、あまりの忙しさに、途中から正の字で売れたものをカウントするという業務を忘れていたのである。
平に謝りながら、記憶を元に必死に正の字を書き足してながら、カウントする事の難しさ、レジスターという存在の偉大さを切に噛み締めたのであった。
つづく。
⇒PLATFORM・19 〜木の祭りが終わった後で