財布が盗られたのだから、それは仕方がない。
そんな緊迫と疲労がピークに達した、その時である──。
何ともバツが悪そうな顔をした母マウスキーが、片手に黄色の長財布を持ち、家族の前に現れたのだ。
!?
一体、何が起こったのか理解する前に、母マウスキーが「財布が見つかった」と報告した。
そう、母マウスキーは、財布を落としてはいなかったし、ましてや盗られてなどいなかったのである!
そんな驚きと共に、昔の記憶がデジャヴのように脳裏に蘇ってきた。
その在りし日の母マウスキーは、やっぱり財布を落としたと言い、家族みんなで大騒ぎになったのである。
それは、もう、どん底貧乏の底の底の光景のように、重苦しく、息も絶え絶えな様子であった。
財布にはクレジットカードも入っていたので、急いでカード会社に連絡したりなどもしていたし、当然大急ぎで警察にも届け出に行った。
そんな数時間後──そう、予想している通りの結末である。
財布は、落としていなかった。
申し訳なさそうな顔をした母マウスキーが、やっぱり財布を持って、「家にあった」と言うのだ!
それと同じ事が今回も起こったのである。
だが、母マウスキーは今回のうっかり事件では、前回の事を教訓として学んでいたようだ。
「落としてもいいように財布の中身は少なめにして、クレジットカードも入ってない」とのこと。
なんと、母マウスキーは学んだ事として、落としてもいい財布作りをしていたのだ!
こんな驚きと共に、今回の事件はあっけなく幕を閉じたのだが、実は年末に再び同じような事があった。
「財布を落とした」と、いうのである。
今回、教訓を学んだのはマウスキー達となった。
「本当に落としているのかどうか、ちゃんと探したほうがいい。警察に言うのは、それからだ」
そして、今回もやっぱり財布は車中から見つかったのである。
更にマウスキーは確信する。
これからも、母マウスキーが財布が見当たらない時に「落とした」と言って、やっぱり家族が慌てふためき続けるであろう事を。
おしまい。
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