2017年2月19日日曜日

恐怖の魔笛-その2

今回、マウスキー姉妹が参加する魔笛で、合唱団の人たちがゾンビの役をするというシーンがあった。

ゾンビの役をすると聞き、無駄にマウスキー達は張り切り、何故だかバイオハザードのゲーム実況を見たり、映画を見たりと、アグレッシブなゾンビの研究にいそしんでいた。

ところが、思っていたようなゾンビではなく、序盤のシーンに不気味なエッセンスとして、手持無沙汰の合唱団たちが、舞台上でモゴモゴと動く影となる程度の事だったのだ。

飛んだり跳ねたりするようなゾンビはお呼びでなかったのである。

まぁ、仕方がない。

人に迷惑をかけないように自分なりに頑張るしかあるまい、と、納得はした。

そう、この、モゴモゴと舞台上で数十秒間動く、ゾンビっぽいイメージの演出、というものが想像を絶した苦難のものとなったのである。

それは、忘れもしない。

わりと暑い日で、とりとり市から距離の離れた中部での練習であった。

その日はオーケストラ合わせという事で、指揮者の先生の指導がある日だった。

心して歌わなければ・・・と思ってはいたのだが、道に迷い、まさかの遅刻。

申し訳ない気持ちでいっぱいだったが、とりあえず今日は演出というよりは、歌を頑張る日だ。

そう思っていた。

まぁ、とりあえずは演技もつけての練習なので、合唱団は序盤、歌の出番がなくても、床に這いつくばってモゴモゴは動かなければならないようだった。

それに、どちらかと言うと、そんなモゴモゴした動きよりも、肝心な歌が、驚くほど酷かった。

人ではない。

マウスキーも人の事は言えない出来栄えだった。

ドイツ語という謎の言語の前に、暗譜は途方もないもので、なかなか覚える事が出来ず、歌に集中できなかったのである。

人の事の前に自分とは言うが、完全に「それは・・どこのパートなのですか?」と疑問に思うような、ステキな音程で歌っている人など、本当に賑やかこの上ない合唱の仕上がり具合であった。

指揮者先生の指導の時に、こんな素晴らしすぎる音程を披露してしまうとは・・・穴があったら入りたい、そうマウスキーは思った。

周囲の人も、人の心があるならば、同じ気持ちに違いない。

だが、なんと、未だに信じがたいのだが、そうではなかった。

残念な感じでありながらも、練習の終了後に、指揮者の先生が「返しでしたい箇所などはありますか?」と、気を利かせて聞いてくれたのである。

そこに、合唱団の主のような顔をしている一人の女性が挙手をした。

──こいつ、合唱曲の返しをお願いするつもりか? ここで、そんな気骨あるところを見せても、音が取れてないなら、しても仕方ないぜ?──

マウスキーはそう思って、その一人の女性に振り向いた。

女性は言った。

「最初のシーンをお願いします。合唱団のゾンビの動きのタイミングが分からないんです」

何だと!!! 

お前、指揮者先生様をお前のゾンビのタイミング確認のために、CDで再生するかのように気軽に扱う気か!!? 

死んで灰になってこい!

当然、そんなものを先生は承諾なさるはずがないだろう、マウスキーはそう思った。

しかし、指揮者先生は承諾して、そんなつまらない願いを受けてくれたのである。

まさかの、ゾンビの動くタイミングを確認したいとかいう下らない希望で、何十人もの人間が動く羽目になるとは・・・なんなんだこれ・・・。

完全にマウスキーは、その時何もする気がなくなってしまった。

そして、迷惑をかけながらのゾンビ確認の終了後──。

マウスキー姉妹は歌を歌った以外の疲れでいっぱいだった。

そして、次の練習の時には必ず暗譜をしてこよう、そう心に誓った。

とりあえずは、あとは帰るだけだ・・・そう思っていたのだが、驚愕の事態はまだまだ続いたのである。

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