2018年10月8日月曜日

PLATFORM・10 ~ 万事オッケーなIさんとNさん

前回は、お店の深刻な経営状態を話したが、マウスキーも何だか気持ちがモヤモヤする深刻な場面に立ち会った出来事があった。

それは、IさんとNさんと一緒に働いていた時の事だ。

IさんとNさんは、女学生時代からの仲良しらしく、仕事の間もとってもリラックスをしている様子で、のんびりとしていたので、マウスキーも一緒に仕事をするのは嫌ではなかった。

何かマウスキーが「あー、うっかり」とか、「あ、しまった」という失敗をしても、Nさんは「いいのよ、そのぐらい」と、言ってくれるし、Iさんは、「大丈夫だわいな」と笑って言ってくれるのだ。

仕事をするにも、とっても気が楽で、相手方がリラックスをしているので、こちらもリラックスをして仕事をする事が出来る。

しかし、そんなある日の事だった。

その日、「お客さんがどうせ少ないから、お米があまったら勿体ない」という理由で、Nさんは、お米をいつもより少なく炊いていた。

すると、何の不運なのか、その日に限って「大盛りで」という客が多かったのだ。
そうなっては、予想以上に米がなくなってしまう。

米がなくなりそうだ……と思いながら米を入れていると、とうとう米がなくなってしまった。

だが、料理待ちのお客は存在していた。

マウスキーは「お米がないです」と告げると、大騒ぎになった。

とりあえず、Nさんはぼんやり立っていて、「そうね…」と、呟き、何かをしようとする事をやめてしまった。



そこで、マウスキーは冷凍庫を漁って、「冷凍ご飯ならあります」と、Iさんに報告した。

すると、Iさんは仕方なさそうに肩をすくめ、「仕方がないけ、冷凍ご飯でいいか聞いてくるけ」と言い、お客さんに確認に行った。

──冷凍ご飯と言わなければ分からないのではないか?──

そんな疑問は、その場に相応しくなかったのだろう。口にもする事が出来なかった。

Iさんは意気揚々と戻って来ると、「冷凍ご飯でもいいって言っとられるので、用意をお願いします」と報告した。

そして、ピークが過ぎて会計の時になると、Iさんはレジを打ちながら、お客さんに「冷凍ご飯で今日はすみませんでした。半額にしておきますね」と、太陽のような笑顔で言い放った。
当然、喜ぶお客さん。
「僕は、いつでも冷凍ご飯で大歓迎です!」と、爽やかに言って帰って行った。
ちなみに、このお客はこの時以来、二度と姿を見なかった。

そんなわけで、その日の売り上げは半分となった。

しかし、IさんとNさんは、売上金額を見ても「こんなもんだわ」とコメントしていた。

その日の売り上げ、大体5000円ぐらいだったと記憶する。

そして、別日の時は、一日とっても忙しかったたのだが、売り上げは8000円という惜しい数字となった事もあった。

そんな時、IさんとNさんは、「私、お父さんと私の夜ご飯に二つ買って帰るけ、あんたもおかずだけでも買って帰りんさいな」と、自分のお財布からお弁当を購入。
なんとか二千円の売り上げを出した。

そして、精算後の売上金額を見て、一万円になっているのを見ると、再び、太陽のような笑顔でIさんは、「売り上げが1万円もあったら、いいわいな」と、嬉しそうに言っていた。



マウスキーは、「そうですね」と言いながら、何か良くない、そんな気持ちで胸がざわついた。

IさんとNさんは、その場を何とかやりすごせたら「大丈夫だったが!」と満足そうにしていて、危機感がないのだ。

必要があって、革命は起こるべくして起きたのだ──。

内税にしてあった料金は外税に替えた結果、驚くほど何の変化もなかった。

文句を言うお客さんはいないどころか、「あー、なるほど」と、むしろ納得してくれた挙げ句、お客さんは減らなかったのである。

Mさんの第一次革命は、静かに、ごく自然に成功した。

しかし、今回記事に取り上げた、IさんとNさんの危機感のなさはどうしようもなかった。
料金を外税にしても冷凍ご飯で売り上げが半額になってしまっては、元も子もないではないか。

しかし、しばらくは、こんな調子で仕事を続けるしかなかったのである。

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