そして、美味しいお昼ご飯の時間の時の事である。
何でそうなったのかはよく分からないが、Dさんの姪っ子の話になっていた。
Dさんが姪の話を始めたのだと思うが、オーナーのMさんとマウスキーは「うん、うん」と、一方的に家庭話を聞いていたと思う。
その時の事だ。
Dさんが、姪が「美〇」という名前の喫茶店で働いていて、そこで出会った男にひどい目に遭った事がある、という話をし始めたのだ。
「美〇」という喫茶店!
遠いようで、遠くないマウスキーの記憶がよみがえってきた。
なんと、「美〇」という喫茶店は、まだ若かった頃のマウスキーがバイトをしていた店である。
そして、どんな子だったのかと聞いた時、Dさんが色々と特徴を話してくれた。
記憶の断片が繋ぎ合わさり、それは完全なものとなった。
マウスキーが働いていた「美〇」という店は、父の紹介でコネで入った店である。次のバイトが見つかるまでの間、働こうと思っていた。
その店は、高齢の夫婦が経営している店で、パンチパーマのマスターがいつもカウンターでうたた寝をしていて、横太りで小柄な奥さんが先輩の女の人と仲が悪そうに過ごしている、そんな店である。
客層はお世辞にも良いとは言えず、援助交際をしているおじさんとか、エロ画の間違い探しに一生懸命になっているおじさんや、「パチンコで10万すったから金貸して」と駆け込んで来るおじさん、大体そんなおじさんが多かった。
何よりも大変だった思い出は、眼鏡のおじさんに付きまとわれた事があるという思い出だ。
何故付きまとわれるようになったかと言うと、その眼鏡のおじさんは、いつも父マウスキーがやって来た時、父マウスキーの後ろの席にさり気なく座っていた。
後ろに座っていなければ、斜め後ろに座っている。
後ろに座っていなければ、斜め後ろに座っている。
そして、ある日の事だ。眼鏡のおじさんが、突然「あなたって、娘さんなんですか?」と、父マウスキーとの関係性を聞いてきたのだ。
「そうです」と、マウスキーは礼儀正しく答えた。
すると、眼鏡のおじさんは名刺を渡してきて言った。
「自分はこういう者なんだけど、お父さんの電話番号を教えてもらっていいかな?」
何故、話をした事もない眼鏡のおじさんに、父親の連絡先を教えなければならないのであろうか。
マウスキーは断ったが、眼鏡のおじさんはしつこかった。
そこで、仕方がなく、父マウスキーに電話をして「電話番号教えて欲しいっていう、おじさんがおるだけど、どうしようか」と聞いてみたところ、「教えるな」と当然の返事がかえってきた。
そんなわけで、「ちょっと連絡先は教えられないです」と断った。
それで終わったかと思うと、そうではない。
眼鏡のおじさんは、何度となく「やっぱり駄目かな?」と、父マウスキーの連絡先を欲しがるのだ。
しかし、父マウスキーも店に来るのだから、直接話せばいいではないか。
結局、眼鏡のおじさんは、直接父マウスキーに話しかける事はしなかった。
「直接聞いて下さい」と言うにも拘わらず、マウスキーに「お父さんの連絡先を教えてくれるのは駄目かな?」と、いくら断っても父マウスキーの連絡先を聞かれ、大変なストレスを感じた事があった……
それも、いつの日か、忘れた頃に聞いてこなくなったのだが。
それも、いつの日か、忘れた頃に聞いてこなくなったのだが。
そんな喫茶店だった。
その店で、マウスキーがバイトで入った後に、人手不足もあって入ってきたのが、Dさんの姪の女の子だった、という話である。
彼女は、少しぽっちゃりしていて、美人とは言えないが、大体ニコニコしていた。
彼女のそんな笑顔に一目惚れしたマスターは、履歴書なんかポイと脇へ投げて(本当にそうしていた)、一発採用してしまった程である。
その後、彼女はお酒が大好きというだけあって、マウスキーとも意気投合。
飲み友になった。
最初に飲みに行ったお店は、彼女が知り合いが経営しているというバーだった。
若かったマウスキーは、ちゃんぽんで飲むのが日常茶飯事で、めったやたらに強い酒を選んでは飲み、酒癖の悪さをあちらこちらで披露していた。
マウスキーの酒癖は絡み癖である。
始めて行ったバーでも、バーテンの男性が赤い大きな蝶ネクタイをしているという事で、「手品を見せろ」と喚いていた事がある。
「蝶ネクタイして、手品が出来ないって、あり得ないんじゃないか」とか、「紫色のカクテルって言ったのに、なんで赤い色が出てくるんだ」とか、とにかく、いちいちと絡んでは喚いていた。
彼女の友達の店だというのに、恥ずかしい醜態をさらしていたというわけだ。
それでも、恥ずかしくても何日か経てば忘れてしまうし、飲みに行った日の思い出は楽しいものとなった。
Dさんの姪っ子さんとそりが合わなくなったのは、仕事中の事だ。
話題が、メンズの話しかない。
「あの人カッコいいと思う」とか、そんな話だ。
マウスキーは、正直、カッコいい基準が理解できず、とりあえず雑誌を散らかしたり、食べ方が汚かったり、返事をはっきり言えない奴は男女問わずいいと思わない、と答えていた。
そして、マウスキーが美〇の仕事を辞める日がやってきた。
ちなみに、辞めた後でもDさんの姪子さんからは、頻繁にメールが届いた。
マウスキーはブログが滞る様子で分かるように、大変な筆不精なのだ。
返事を書くのも大変である。
当時はLINEが普及していなかったので、とても大変だった。
そんなわけで、返事を書かなかったり、「了解」と書いて送ったり、「ごめん、無理です」と書いたりする日々が続いた。
そして、Dさんの姪っ子さんと飲みに行った最後の夜の事だ。
酒は飲みに行きたいマウスキーは、久しぶりなので上機嫌でほいほいと街に駆り出した。
この頃のマウスキーは、酒癖が悪い事を自覚する事があり、飲み方を変えていたので、変な飲み方はしなくなっていた。成長したのだ。
そして、普通に世間話をしたりしながら食事をして、お酒を飲んだ。
その後、Dさんの姪っ子さんが「前に行ったバーに行く?」と言ったので、以前喚きまわっていたバーへ行く事にした。
店に入ると、蝶ネクタイのバーテンと、もう一人、女装をした店員がいた。
その他、覚えている事は店内でゴジラの映画がテレビで流れていた事だ。
そして、どういうわけか、Dさんの恋の痛手の話になっていった。
どうやら、美〇で出会った男の人と、同棲をしていたようだ。しかし、その男は元カノとヨリを戻したらしい。
しかし、「元カノとヨリを戻すけど、俺はお前の事が好きなんだ」とかも付け足して言ったそうだ。
一通り事情を離したDさんの姪子さん。
その後に、マウスキーの方を向いて、「そんな事言われたら、私どうしたらいいだ?!」と言ってきたのだ。
マウスキーは親切心から相談に乗り、「そんな奴と別れれて良かったと思う。別れればいいだけなのに、何を悩む事がある?」的な答えをしたと思う。
すると、彼女は声を荒げて、「別れるっていうのに、ヤッちゃっただで?」と言い出した。
店の店主は神妙そうに、「あちゃー、それは大変だー」とか言っていた。
マウスキーは、「それでも、別れるという事に関して何が問題なのか分からない」と首をかしげていた。
すると、ついにDさんは、「もう辛くて私泣いちゃう」と、言い出した。
悩み相談ではなく、とにかく感情を吐きたいだけだと判断したマウスキーは「泣きたいなら泣いたらいいが。その間、マウスキーはゴジラでも見ておくけ」と、親切から言った。
それが彼女の怒りを煽ったようだ。
Dさんの姪っ子さんは怒り出し、急にマウスキーを糾弾しはじめたのだ。
「この人はこの通り冷たい人間なんだ!」とか、「メールの返信もしない!」とか、「メールですら冷たい!」とか、とにかくそんな感じの事を並びたてた。
マウスキーは親切に接していたつもりだったので、本当に心外だと思った。
そこへ、姉マウスキーから電話がかかってきたので、迎えに来てもらう事にして、マウスキーは帰る事にした。
そして、「じゃ、帰るけ」と、泣き喚く彼女に背を向けて店を後にした。
それから、彼女との連絡が途絶えて、すっかり忘れて、記憶は忘却の彼方へと埋もれていたのだ。
それが、まさか今更になって関連づけられるとは思いもよらなかった。
しかも、同じ同業者のDさんの姪っ子さんだったとは……親切にしていなかったので(していたつもりだが)、何だか心疚しい気持ちもありながら、話題を合わせるしかなかった。
「あー、綺麗な子でしたよね」「働き者でした」と、うんと褒めた。事実そうだったと思う。洗剤を人一番使っていたけれど。
そのDさんの姪っ子さんは、どうもマウスキーに以前話していた同棲していた男に、随分とお金をかけさせられていたらしい。
とにかく、そんな感じのひどい男だったそうだ。
しかしながら、今では子供が出来ていて、結婚もして、幸せにしているという事だったので何よりである。
だが、それにしても、10年近く経ってから、微妙な縁を感じるとは、運命論者ではないが、運命について考えてしまうほどだ。
Dさんの姪っ子さんとは仲良くなれなかったが、10年後にアヒルック代理店の同業者であるDさんに誘われて店に出るようになり、現在に至るとは……
さて、そんな不思議な縁もある、この店についてももう少し説明してみる事にしよう。
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