2018年10月6日土曜日

PLATFORM・8 ~ Dさんショック

コンサート終了後、疲れ切っていたマウスキーに、「Dさんが店を辞めたって」と、笑いながら告げた母マウスキー。

最初は半信半疑ではあったが、オーナーのMさんから「Dさんが辞めるって言って、出てこんくなった」と告げられた時に、それが真実なのだと実感するしかなかった。

オーナーのMさんも、Iさん、Nさんも納得していない中、ある日突然、本人だけ「辞めた」と言って、店に出て来ないなどという事があるのだろうか?

Mさんは連絡を取ろうと試みたのだが、電話に出てもらえないらしく、店は飽和状態となった。

そんな折り、マウスキーは笛のコンサート直前の時に、Dさんが随分と楽しくなさそうに、寧ろ怒ったように仕事をしていた事を思いだした。

その日は、Dさんと、Iさんと、マウスキーの三人で仕事をしていた。

お弁当にご飯を詰めていたところ、途中でご飯を入れる容器の在庫がないという事に気が付いた。

在庫が入っている箱を見てみても、どうやら大きい容器しかなかった。

Iさんがそれを持って来て、「これは大きいけど、この中に普通盛りで入れたら間に合うが」と、嬉しそうに言った。

すると、Dさんはスマホをしながら怒ったように、「まずMさんに聞いてからにして! その容器は返品するって言っとったけ、勝手な事したら怒られるで!」と言い放った。

しかし、Iさんは「でもこれしかないが。仕方ないが」と言い、開封してしまったのである。

Dさんは激昂して、「私は知らんけーな!!」と、Iさんを再度怒鳴りつけた。

マウスキーは言われたようにし、開封した容器に米を詰めた。

何せ、Dさんの勢いを前に、口を入れるような奴は命知らずである。

そして、米の容器のピンチを脱して平和でいたところ、Nさんが何かの用事で店にフラリと入ってきた。

続いて、用事があったMさんもやって来た。

Mさんがやって来たため、米の容器の事をすぐさま解決できたわけだ。

最初に、あの大きな容器は返品するものだったのか、という確認から入った。

その通り、容器は返品するものだったのである。そればかりか、通常サイズの容器までちゃんとあったのだ。

Mさんが「ここにありますよ」と出していた、米の容器。

あんなに探していたのに……。

そんなわけで、Dさんの怒りは噴火した。

「私はだけー言ったが!!」と、Iさんを再び糾弾し始めたのだ。「確認もせんで勝手に開けたのはあんただけーな!!!」

などと、凄まじい様子となった。

マウスキーはというと、とにかく、気配を消して、空気のように過ごしていた。
みんながその時の事を振り返って、果たしてその場に、マウスキーがいたのか、いなかったのか、分からないぐらい存在を消していたと思う。

それから、何の口論だったか忘れたが、DさんとNさんまで声高に言い争いはじめたのである。Iさんも参加していた。

マウスキーは居心地が悪く、どうしようと思いながら、無駄に炊飯器の米を混ぜていたと記憶する。

そんな時、店の電話が鳴り響いた。

すぐさま電話を取り、お客様に対応をはじめたMさん。

電話の内容は、どうもお弁当の注文を受けているらしかった。

だが、しかし、店内はDさんの怒声で店内音楽が聞こえないほどで、Dさんとは違うトーンでNさんとIさんまで騒いでいるものだから、Mさんは耳を塞いだりしながら電話応対していた。

途中、受話器を押さえ、「お客さんから電話ですよ、静かにして!」と、ひそひそ声で言ったのだが、Dさんと、Nさんと、Iさんの耳には欠片も入らなかったらしい。

やっとの事で電話応対を終えたMさん。

喚く三人に対して、「お客さんから電話の時は静かにする! そんなのはいつでも話せる事でしょ!」とキツく一喝した。「電話してる横で大声で喚かれたら聞こえないでしょ!」

当然の事なのだが、Dさんは納得していなかった。

声のトーンは小さくはなったのだが、全身から不満のオーラが漂っていたのである。

ちなみに、マウスキーが声を荒げたMさんを見たのは、その時が最初で最後だった。

Mさんは設計士の仕事もあって忙しいため、そのまま店で用事を済ませると、帰宅してしまった。
結局、返品予定の容器を開封した事に関しての叱責は何もなかった。

その後、Nさんも帰宅した。

そして、気まずい感じのDさんとIさんと一緒に残りの時間を過ごしたマウスキーは、特に何も気を使わず、ぷんぷんしながらスマホで、LINEやツムツムをするDさんに思春期に通じる果敢なものを感じていたと思う。だから、そっとしておいた。

そう、それが、コンサートの直前の事だった。

マウスキーは、それが原因でDさんが辞めたのかと早とちりしたのだが、Mさんの説明を聞いた時、どうもそんな事は理由ではなかったらしい。

どうやら、マウスキーが知らない水面下で、店内に一悶着起こっていたようだったのだ。

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