大体、必ずそのような席で行われる自己紹介なる苦行も過ぎ去った。
積志リコーダーカルテットと、鳥取バロックアンサンブルと、たのしい笛の会の3つの会の懇親会という事なので、メンバーもそれぞれバラバラに席を配分されて座っていた。
人見知りには実に厳しい事態となったのだが、目の前にはお世話をしてくださるN先生がいたので、そこは人見知りのマウスキーにとっての救いであった。
この時、鳥取バロックさんと積志リコーダーカルテットの皆さんの話で知ったのだが、積志さんは蟹を食べに鳥取に行きたいと、強く願っていてくれていたらしいのだ。
そして、とりとり市の蟹に非常に喜んで下さったので、この時生まれて初めて、蟹が取れる場所に生まれ育って良かったと、誇りにすら感じる事が出来た。
そんな時だ。N先生が蟹を食べながら、「地元民は、大体蟹汁で蟹を食べる」と、言い出したのだ。
「蟹汁!?」と、徳永さんが最初に食いついてきた。
蟹汁とは、とりとり民が愛する家庭料理の一つで、親蟹と呼ばれる小さな蟹で出汁を取り、大根を入れて、味噌汁にして食べるというものである。
親蟹には身は入っていないのだが、蟹の卵なんかがとても美味しく、豚汁と並んで、冬の定番料理の一つだ。
そんな話を聞きながら、積志さんたちは、「蟹汁も食べてみたいなぁ」と、つぶやいていた。
このように、とても楽しく、賑やかに懇親会は進んでいっていた。
ちなみに、マウスキーの周辺以外の席でも、色々と楽しく盛り上がっていたようである。
姉マウスキーとAさんは、曽根さんの近くに座っていたらしい。
話によると、曽根さんは蟹の身をほぐすプロだったらしく、それは素晴らしい手つきで蟹の身をとってくれたらしいのだ。
すっかり姉マウスキーとAさんは感動してしまったとの事だ。
更に、中央の席での事である。
中央の席には、Tomokoさんの近くに、徳永さんと、斎藤さんが座っていた。
この時、Tomokoさんは、カニ鍋による秘密奥義を密かに誰にも知られる事もなく繰り出そうと、ずっと力をチャージしていたらしい。
カニ鍋を食べ終わり、しめの雑炊に入った時、その力が解き放たれた。
彼女は、なんと、蟹を食べずに、積志リコーダーカルテット様のために、黙々と蟹の身をこの時のためにほぐし続けていたというのである!
これぞ、彼女の奥義「蟹雑炊」だった!
マウスキーは、殆ど出汁だけになっていた鍋に、米と、Tomokoさんが散々ため込んでいた蟹の身が投入されていく様子を見て、衝撃を隠しえなかった。
この蟹雑炊という技は、他の誰一人として思いつかなかった技であった。
後々、Tomokoさんは、積志さんたちに食べて欲しいために、苦手な身を頑張ってほぐして蟹雑炊にした、と言うのだ。
この涙が出るほどの、おもてなし術。
世界よ、これがとりとり市民だ!
これには、さすがに徳永さんも斎藤さんも感動したようだ。
そんなわけで、Tomokoさんの仕切っていた鍋では、蟹の身たっぷりの蟹雑炊が振る舞われたわけである。
カニ鍋最優秀賞は、こういったわけでTomokoさんの鍋が授与する事となった。
さて、たっぷりと蟹を堪能しながら、想像以上に親しみを感じる事が出来た今回の親睦会。
コンサートの後に打ち上げをするよりも、先に親睦会をする事の意義をみんなで語るほどだった。
そして、永遠に続いてほしいと思うほど輝かしい親睦会も終わり、皆は帰路についた。
しかし、まだまだおもてなし作戦は終わってはいなかった。
帰りがけに、Aさんがその本領を発揮してきたのである。
なんと、コンサート本番の早朝に港に行き、蟹を仕入れて、積志さんたちが「食べてみたい!」と口を揃えて言っていた、「蟹汁」をお昼ご飯に作ると言い出したのだ。
そんな料理が出来るのは、確かに笛の会では、Aさん以外に誰もいない。
全力でおもてなしをしたい我らは、全力でAさんを支援する事にしたのだった。
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