友人のTomokoさんが、とりとり大学の関係のコンサートに出演するという事で観に行ったのだ。
その日、Tomokoさんはとても幅広いジャンルの歌を歌っていた。
そして、彼女が「オペラ座の怪人」から、「Think of me」を歌った時、事件は起こったのである。
さて、言うまでもないが、とりあえず「オペラ座の怪人」についてのあらすじを、ざっくり紹介しておく。
オペラ座の怪人とは、パリのオペラ座を勝手に根城にしている、骸骨顔を仮面で隠した男の事である。
彼は、顔は骸骨だけれど、あらゆる事に才能を持っていて、クリスティーヌという女の子に歌を指導しており、彼女に主役を歌わせようと、影ながらに応援するのである。
とりあえず、脅迫したり、照明を主役の歌手めがけて落としてみたりと、色々と1人で頑張る。
そして、頑張った甲斐あり、クリスティーヌが主役に抜擢され、舞台で歌う事になるのだ。
そして、そんな初舞台でクリスティーヌが歌う曲が「Think of me」である。
彼女が舞台で歌っているのを聴き、幼馴染のラウル子爵という男が、「(傍白)あれは、クリスティーヌ! ブラヴォー! 幼い時に出会った、僕は覚えてる。無邪気に遊んだ君のこと」とか、言い出す。
この先の、クリスティーヌと怪人とラウルの三角関係の始まりのようなシーンだ。
まぁ、その時の歌をTomokoさんが歌ったのである。
1人で舞台に立って歌っていた彼女を見て、マウスキーは普通に、ラウルが口を挟んで歌うシーンは、伴奏だけでナシにして歌うのだろうな、と思って聴いていた。
そして、普通に聴いていた、その時である。
ちょうど、舞台の下手側に、チラッと人影が見えたのである。
その人は、フラフラと三歩ほど出てくると、すぐに舞台裏にシャッと素早く引っ込んでしまった。
何かの見間違えではないだろうかと思い、マウスキーは集中できなくなった。
何度も下手側を見たのだが、どうやら、誰も出て来る気配はもうない。
きっと、スタッフの人が間違えて出て来てしまったのだろう・・・多分・・・。
そして、もう一度何とか気にしないようにしようとしていた、その時である。
今度は、上手側から、先ほどの人間でフラフラっと出てきたのだ。
間違いない、こいつは変質者だ!!
小さい時にテレビで見た事があるのだが、有名人の誰かが舞台で歌っている時に、日本刀を隠し持った変質者がフラリと舞台上に上がり、斬りかかった事があるとか・・・。
一大事だ! どうして誰も何も言わないんだ!
完全に体中に悪寒が走り、一瞬で流血沙汰の事件になるかもしれないと恐怖一色に染まった、その時である。
なんと、突然この謎の男が、下を向いて出てきた流れで、おもむろに楽譜を凝視したままラウルの部分を歌いだしたのだ!
演技をしながら歌っているTomokoさんと、楽譜に歌いかける謎の男。 |
色々ショッキングすぎて、マウスキーは言葉がなかった。
一瞬先までは、この舞台が狂気に包まれ、この変質者との乱闘が始まるのではないかと心配していたというのに、今では全く違う事になった。
たかだか、ラウルがちょこちょこっと口を挟むだけの歌の部分に、これほどまでも浮き出た存在感は一体何だろう?
まぁ、まぁ、練習の場ならわかるのだが、これは一般の人々が聴きに来ていたステージである。
「オペラ座の怪人」を知らない人が、このステージを見てしまったら、果たしてどんな風に思うだろう?
フラリフラリと出てきた謎の男を、まさか子爵とは思わないだろう。
「なるほどな、こいつがオペラ座の怪人か。さっきから怪しいと思っていたぜ」
そう、確信するに違いない。
ストーリーを知っているマウスキーですら、「今日のステージには、本物のオペラ座の怪人が登場してきたな・・・」と思ってしまったほどである。
しかし、この件に関して、なかなかマウスキーは口にする事が出来なかったので、後日、Tomokoさんと会話をする機会があった時に、「果たして、あれは何だったのか」と尋ねる事になった。
そして、その謎の怪人についての話を聞いたのだが、やっぱり謎の男は謎でしかない印象しか残さなかった。
何でも、飛行機に乗った時に、手持ちで持っていた甘納豆を爆発させ、テロだと騒がれたらしい。
浮いた人というのは、どこにいても浮いた存在になってしまうというわけだ、それがステージの上でも。
そして、今から思うと、ある意味伝説に名を刻む事となった、その謎の怪人は大物だったのではないかと思う。
誰しも、そんな風に素の状態のまま、ぶらぶら、ふらふらと出て行き、楽譜を抱えて、「あれは、クリスティーヌ」と「今日はどうよ?」と聞いているようなノリで歌いだす事など出来ないからだ。
やはり、人間には無限の可能性が秘められているらしい。
そんなわけで、Tomokoさんのオペラ座の怪人のステージは、合唱等でステージに上がる時のマウスキーに勇気を与えてくれた事となった。
「あんな風に浮いた事をしなければ、何も問題はない」と、いう風に。
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